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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(オ)82号 判決 1963年3月01日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小倉源三郎、同小倉忠義の上告理由について。

上告人が本訴請求の原因として主張するところは(一)被上告人は訴外鈴木周作に対し昭和二八年一〇月二三日五〇万円を弁済期昭和二九年一月二三日と定めて貸与し、その担保として、同訴外人所有の原判示不動産につき順位一番の抵当権の設定を受け、同時に弁済期に右債務の弁済のないときは代物弁済として右不動産の所有権を取得することを約し、即日右抵当権設定登記並びに所有権移転請求権保全の仮登記を経由し(二)訴外松本武雄は、被上告人の依頼により、昭和二八年一二月一日鈴木周作に対し三〇万円を貸与し、その担保として右不動産につき順位二番の抵当権の設定を受けてその旨の登記を経由し、鈴木周作は右三〇万円を被上告人に対する前記債務の一部弁済として支払い、同日被上告人は本件不動産について抵当権の一番の順位を松本武雄に譲渡してその旨附記登記を経由し(三)松本武雄は上告人に対し昭和二九年三月三〇日右債権及び抵当権を譲渡してその旨の登記を経由したところ(四)被上告人は同年一月二八日約旨にもとづき本件不動産をもつて代物弁済を受けて自己の有する抵当権を消滅せしめ、もつて上告人が松本武雄から譲り受けた順位一番の抵当権の実行を不能に帰せしめた、というにある。

しかし、抵当権の順位を譲渡し、その旨の附記登記を了した者が、その後右抵当権設定登記より後順位にある停止条件付代物弁済による所有権移転請求権保全の仮登記に基き債務者より代物弁済を受けたとしても、右仮登記に先立つ抵当権の順位の譲渡を受けた抵当権者の抵当権はこれがため侵害されるものではないと解すべきである。けだし、抵当権の順位の譲渡は譲渡人と譲受人間の順位の転換を生じ、譲受人は譲渡人の有した抵当権の範囲及び順位において抵当権者となるものであるから、例えば第一順位の抵当権の順位を譲り受けた第二順位の抵当権者は、順位譲受の結果第一順位の抵当権者となり、従前の第一順位の抵当権者は第二順位の抵当権者となるのであつて、既に第一順位となつた抵当権者の抵当権は、第二順位となつた抵当権者がその後債務者より自己の抵当債権の弁済を受けたからといつて影響を蒙るべきいわれはないからである。

然らば本件において第一順位の抵当権の譲渡を受けた松本の抵当権及び松本よりその抵当権を譲り受けた上告人の抵当権は被上告人が前記代物弁済を受けたことにより消滅するものでなく、またその抵当権の実行を妨げられるものでもないから、上告人の本訴請求はそれ自体理由がなく、これと同趣旨に出でた原判決は正当であつて、所論は独自の見解というの外なく採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介)

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